人間が健康な生活を営むためには、必要にして十分な栄養素と、清浄な水及び空気を摂取することが必要である。しかし、人口の爆発的な増加と各個人の生活レベルが向上することによる近年の人問活動の増加は、エネルギーの大量使用と共に人為起源物質を多用する結果となり、これら化学物質が食品、水や大気を汚染し、人間の健康に影響を与えることが心配されている。衛生化学研究室においては、化学物質の内でも特に金属化合物が人の健康にどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的とした研究を実施している。
金属は便宜上、人の健康に必要な必須金属と有害な非必須金属に分けられる。しかし、必須金属であっても過剰にあれば有害であり、非必須金属であってもある濃度以下であれば毒性は現われない。 ときには少量の有害金属が生体防御反応を刺激することにより、生体に有益に働いていると見られることもある。さらに、これらの金属は互に、あるいは生体内の金属と複雑な相互作用を行なう。このような生体と金属の係わりあいを解明するため、以下のような観点からアプローチしている。金属は生体にどのような形態で取り込まれ血流中を運搬されるか、また各臓器に対する選択的な分布はどのような機構によるのか、各種細胞中ではどのような器官に分布し、どのような生体成分に結合するのか。これらの結果、各金属はどのようにしてその生物学的作用を発揮するのか。体外に排出する機構はどのようになっているのか。生体と金属の係わりあいをこのように各段階に分けて研究した結果から、生体は金属をどのように制御しているか機構的に明らかにすることも研究目的としている。一方、金属が生体に及ぼす影響を検出するための生物学的指標を検索することも生体と金属との係わりあいを知るために必要である。このようにして生体と金属との係わりあいを各金属に特異的な指標と機構から明らかにするための研究を、具体的には以下に示すようなテーマで実施中である。
- 生体内の重金属および類金属のスペシエーション法の開発と生物学的応用
- 重金属結合蛋白質メタロチオネインの核内移行機構の解明
- 生体によるセレンの代謝機構の解明
- 生体による銅の制御機構の解明
- 化学種に依存したヒ素の代謝機構の解明